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2010/06/04 / phonda

速い

カウンター席に座り、ラーメン屋でひとり黙々とラーメンをすすっている僕の横で、誰かの声がした。その声はとても通りがよく、ホールから厨房へオーダーを通すような声量であった。

「こーれほーんと自信持ったほうがいいと思ってんだよ!最初はどうなっかなーって思っちゃうじゃん!?最初は!でも、負ける気がしないっていうかさ!自信もってやーりゃーいいんだよ!負ける気がしないーっていうかさ!俺!なっ!…兄ちゃん聞いてるー?負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」

僕の地元の仲間うちでは、「速い」という言葉がある。

あまりにも一方的で素っ頓狂なメッセージをストレートにぶつけてくる相手に対し、「ついて行けません」とか「ちょっと落ち着けよ」という意味を込めて、「今あなたは客観的に見て特殊な存在になってしまっていますよ」ということを知らせるときに使われる言葉である。

店内に響き渡ったその声もまた「速い」ものであったが、店員同士のやり取りだと思った僕は、独特のリズムをただ記憶にとどめながら聞いていた。しかし、そのあとの沈黙が長すぎるため、目だけで横を向くと、一人の男が完全に僕のほうを見て静止していた。

青いジャージ。明日、世界が滅びるとしても、そのジャージだけは残るかもしれないほどに青いジャージ。そして、ジャージの青さとは対照的に、色白で幼さの残るその顔には、まゆ毛がなかった。

「負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」
「負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」
「負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」
「負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」
「負ける気しないって俺のラーメンのこと、どー思いますか?」

今こうして5回も繰り返し、反芻をしても分からない。速い!超速いぞ!

なおも青ジャージは見つめている。僕はできるだけ平静をよそおい、低いトーンで慎重に、「うん…」とだけ答えた。

僕の返事が聞こえたのか、まったく判別できなかったが、青ジャージは、呪われた五月人形のような顔でまた、「負ける気がしないっていうか」と言った。

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